他人のPC「借用」仮想通貨計算 ウイルスか合法技術か

 他人のパソコンのCPU(処理装置)を借用して、仮想通貨のマイニング(採掘)を手伝わせる「コインマイナー※」。仮想通貨ブームもあって話題になっているが、そのプログラムをサイトに設置している運営者たちが、不正指令電磁的記録(ウイルス)供用や保管などの容疑で相次いで摘発されている。コインマイナー用のプログラムが「ウイルス」と判断されたからだが、技術者からは疑問や反発の声も出ている。なぜなのか。

 

【用語解説】コインマイナー
 仮想通貨取引の正しさを証明するための計算作業に参加し、対価として仮想通貨を入手することを金の採掘に例えてマイニングと呼ぶが、計算には高性能なコンピューターが必要だ。このため、他人のコンピューターの処理能力を借用して行おうとするのがコインマイナー。今回、捜査対象となっているのは、自分の運営サイトにコインマイナー用のプログラムを設置していたケースだが、このほか、第三者がサイトを改ざんして埋め込んだり、メールで直接プログラムを送りつけて実行させたりするなど明らかに違法な手口もある。

 

コインハイブ サイト設置で摘発相次ぐ

 「まさか違法とは思わなかった」。今年3月、横浜地検にウイルス保管罪で略式起訴され、罰金10万円の略式命令を受けたウェブデザイナー(30)はこう話す。昨秋、自分の運営する音楽サイトに、「コインハイブ」と呼ばれるコインマイナー用のプログラムを設置したところ、これがウイルスと判断されたという。

 コインハイブは、昨年9月にアルゼンチンの技術者らが発表したサービスで、サイトに専用プログラムを設置すると、閲覧者のブラウザーにマイニングのための計算をさせ、計算結果をコインハイブ用のサーバーに送信させる仕組みだ(左図)。収益の7割はサイト運営者が、3割は開発者側が受け取る。

 開発チームは「広告に代わる、新たな収入モデル」とうたい、国連児童基金(ユニセフ)も広く寄附を募る方法として導入した。ただ、マイニングには閲覧者のパソコンのCPUが使われ、使用率の設定によってはパソコンの動きが遅くなる。リリース当初は閲覧者の同意をとる設定がなかったこともあって、「知らない間にマイニングを手伝わせるなんて不愉快」などの批判が起きていた。

 こうした中、今年に入って神奈川や宮城、茨城など全国の警察が捜査を開始。これまで少なくとも5人のサイト運営者がウイルスの供用や保管などの容疑で捜査を受け、既に略式命令を受けたケースもある。神奈川県警は「捜査中なので回答できない」とする。

 略式命令を受けたウェブデザイナーは処分に納得できず正式裁判を請求した。弁護を引き受けた平野敬弁護士は「閲覧者のパソコンを壊したり情報を盗んだりといった不正な動きはしない」などとしてウイルスには該当しないと主張している。

 


「広告と同じ」

  • コインハイブを利用したユニセフの寄付ページ。マイニングを説明し、同意を得てから参加を求める
    コインハイブを利用したユニセフの寄付ページ。マイニングを説明し、同意を得てから参加を求める

 摘発には疑問の声も上がっている。コインハイブで使われている技術は、通常のサイト運営で使われている広告と同じ仕組みのものだからだ。

 どちらも、サイトのウェブ文書に埋め込まれたジャバスクリプトと呼ばれる簡易プログラムによって、閲覧者のブラウザーに自動的に指示を出す。例えば、フェイスブック(FB)の「いいね!」ボタンが設置されているサイトを閲覧すると、たとえクリックしなくても自動的に閲覧履歴などの情報がFBに提供されてしまうが、これもジャバスクリプトによる指示だ。コインハイブとの違いは、指示の結果、ブラウザーの情報を提供させるか、計算という労働力を提供させるかに過ぎない。

 コインハイブを設置していた20代の会社員は「もしこれが違法なら、広告も違法とするべきでは」と話し、「仮想通貨のサービスに興味があって使ってみたが、もう新しい技術を使うのは怖い」と不安を漏らす。

 

ウイルスか 難しい「不正」判断

 何がウイルスで、何が合法なプログラムなのか。その線引きの難しさは、2011年にウイルスに関する罪を新設した刑法改正の法案審議の段階から指摘されていた。

 刑法ではウイルスについて、「正当な理由がないのに」他人のパソコンに「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」「不正な指令を与える」ものと定義している。だが、何が「不正」にあたるかは、法務省の解説でも「その機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断」と示すにとどまっている。

 当時、参議院法務委員会に参考人として出席した産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は「懸念した通りの事態が起きた」と批判。「閲覧者に無断で計算させCPUを使わせることが問題だと言うが、一般のコンテンツの閲覧にもCPUは使われる。動画広告を置けばコインハイブより重くなる可能性もある。これが急に犯罪とされるのは理解できない」と話す。

 これに対し、「クロに近いグレー」とみるのは刑法が専門の園田寿・甲南大法科大学院教授法だ。「技術者にとっては常識的な技術でも、一般の利用者にすれば、自分のパソコンが他人に道具のように使われているとは想像できないだろうし、そうされたいとも思わないだろう」として、「社会的に許容されているとは言い難い」と話す。広告と同じ仕組みである点についても、「広告も、利用者が実態をよく理解しないうちに広がってしまったが、勝手に情報を取得する広告はクロに近いのではないか」とする。

 だが、革新的な技術やサービスが次々と登場する時代には、新技術がすぐに社会に受け入れられない可能性もあり、不正の判断はますます難しくなるとも園田教授は指摘する。「不正と認定されないためには、利用者に丁寧に説明し、同意をとりながら進めていく以外にないのではないか」と話している。

 

「社会的に許容できる」とは…裁判官の評価必要

 コインハイブを巡る一連の事件では、検察側が公判(正式裁判)請求したケースは確認できていない。サイト運営者の多くは略式起訴され、簡易裁判所で罰金刑を言い渡されているとみられる。

 だが、前述のように、「不正」の判断は簡単ではない。「社会的に許容できる」ものに何があたるか、誰もが同じ判断をするわけではないからだ。このような評価は裁判官がしっかり検討する必要があるはずだ。正式裁判になれば被告人の負担が重くなるものの、同種事案の判例がない中で、検察側の「解釈」だけで刑が確定していくことには疑問も感じる。

(編集委員 若江雅子)

2018年6月11日14:55 Copyright © The Yomiuri Shimbun