「孤立」救うには…(3)ひきこもりの現状

息子のひきこもりと暴力 耐え続けた母

 「社会から“孤立する人”をなくそう」をテーマに、10代から日本を変えるアイデアを募る読売中高生新聞の「中高生未来創造コンテスト」。孤立社会・日本の現状を伝える連載第2回の今回は、ひきこもり、家庭内暴力、そして精神疾患(しっかん)を乗り越え、社会とのつながりを取り戻した親子の物語を紹介します。

親子の心を救った「社会とのつながり」

 「この子と冷静に話ができる日が来るとは、15年前には想像できませんでした」

 今年3月、さいたま市の女性(75)は自宅マンションを訪れた記者にそう語った。隣で長男(41)が少し照れくさそうにうなずく。

 どこまでも穏やかなこの親子は壮絶(そうぜつ)な過去を乗り越えてきた。

 長男が家族に暴力を振るうようになったのは中学1年の後半頃。女性は担任に相談したが、学校で変わった様子はなく、家だけで暴力を振るう状態が続いた。

 高校に入ると行動はエスカレートした。学校に行かなくなり、高校を2年で中退した後は自室にひきこもって、気に入らないことがある度に暴れた。

 耐えかねた夫は家に帰らなくなった。「子どもを犯罪者にしたくない」という気持ちから警察にも通報できず、女性は毎晩、ジーンズをはいたまま布団に入り、暴力が始まると次男を車に乗せて家から逃げ出す日々を送った。

 長男は20歳で精神疾患と診断された。入退院を繰り返す日々が始まった。

「治る」を信じて

 30歳に近づいた頃、転機が訪れた。長男が「俺には所属先がない。中ぶらりん。それが後ろめたい」と()らしたのだ。

 女性はハッとした。「確かにその通りだ。社会とつながる何かを始めなければ、長男の人生は動き出さない」

 決意を固めた女性は、自らの手で喫茶店を開業。長男に「手伝ってほしい」と声をかけ、喫茶店の仕事に誘った。

 ウェーターとして働き始めた長男は接客もうまくなった。徐々に自信をつけていき、女性は店への行き帰りの約40分の車内で、長男からそうした話をじっくり聞いた。

 まわりも親子を支えた。長男が通う生活訓練施設のスタッフは「暴力はいけない」と懇々(こんこん)と説いてくれた。主治医は「いつか治る」と励まし続けてくれた。

 暴力は消えていった。

 長男はその後、大学にも合格。38歳で電気工事会社に就職し、服薬しながら働いている。昨年の母の日には中華料理をごちそうした。

 「ひたむきに働く母を見て自分もちゃんと生きたいと思った。やりたい事を後押ししてくれた母に感謝しています」

 今、地元の精神障害者の家族会で会長を務める女性は苦しむ母親たちにこう伝えたいと思っている。

 「病気でもうまく向き合える日はいつか来る。可能性を信じ、希望を捨てないでほしい」

◎この記事は、2017年4月に読売新聞朝刊社会面に掲載された連載「孤絶 家族内事件 親の苦悩(5)」をもとに作成したものです。

10代へメッセージ

 この親子が、次世代を担う10代に伝えたいことは? 2人からメッセージをもらった。

 ひきこもりや精神疾患の問題を教育現場などでもっとオープンにしてもらい、知識と理解を深めてほしいと願っています。

 ひきこもりになる原因は様々です。学校でのいじめや人間関係の悩みだけではなく、心の病が原因という人も少なくありません。

 特に精神疾患については、偏見もあり、真正面から語り合うことを避ける向きもあります。肉体的な病と同じ病気の一種なのに、なぜなのでしょう。

 たとえ、ひきこもりであっても、精神疾患であっても、まわりの理解やサポートがあれば、社会とつながりを持ちながら、自分のペースで生きることはできるはずです。みなさんには、みんながそれぞれの個性を尊重しながら暮らせる社会のあり方を考えてほしいと思います。

悩んでいたら声をかけよう

ひきこもり問題に取り組む精神科医の中垣内さん

 今回紹介した親子のような事例以外にも、若者が社会との接点を持てなくなるケースはたくさんある。その代表例が「ひきこもり」だ。この問題と長年向き合ってきた「ながおか心のクリニック」(新潟県長岡市)の精神科医、中垣内(なかがいと)正和院長に聞いた。

 国の定義では、ひきこもりとは6か月以上、社会と関わらず、家にとどまっている状態のことを言います。

 ひきこもりになるきっかけの一つが「不登校」です。中高生時代は、受験への不安、友人関係の悩みなど、ちょっとしたきっかけで学校に行くのが難しくなる、というケースは珍しくありません。

 学校に行かない時期が長引き、ひきこもり状態になると、そこから抜け出すのは難しくなります。ひきこもりは若い人の問題と捉えられがちですが、実は日本ではひきこもりの長期化が問題になっており、40歳以上の人も珍しくなくなっているのです。

 では、こうした問題に苦しむ人を救うにはどうしたら良いのか。

 まず、みなさんの世代で言えば、不登校になる友達を減らすことが挙げられます。友だちや家族が悩んでいたり、落ち込んでいたりする様子があれば、声をかけ、()(づか)うことが大切です。

 また、ひきこもりを「社会から脱落した人」と否定的に捉える風潮も変えていかなければなりません。ひきこもりは「生き方を()(さく)している人」。周囲の理解とサポートがあれば、社会との接点を取り戻し、自分らしく生きていく道はきっと見つかるはずです。

考えるヒント

(1)いま日本ではひきこもりの長期化が問題になっている。なぜ、ひきこもり状態になると抜け出すのが難しいのか。当事者の立場にたって考え、周囲ができるサポートのあり方を考えてほしい。

(2)「偏見」や「世間の常識」によって、活躍の機会を奪われている若者はいないだろうか。様々な個性が活躍できる環境を作るためのアイデアを考えてほしい。

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