孤立解決のアイデア 結果発表

1人にしない

 独りぼっちにならず、家族や友人、知人と手を取り合って生きていけたらどんなにいいことだろう。

 今の日本社会では、そんな当たり前の幸せですら、かなえることは難しくなってきている。人と人、人と地域のつながりが希薄(きはく)化し、老老介護や児童虐待(ぎゃくたい)、ひきこもりなどで家庭や社会から孤立した人が増えているのだ。

 社会から孤立する人をなくそう――。読売中高生新聞は昨秋、こう呼びかけ、10代の視点で日本の現状を変えるアイデアを(つの)る「中高生未来創造コンテスト」を実施。応募テーマの背景には深刻な社会問題が横たわるが、国内外から274件の前向きな提案が寄せられた。

 このうち、斬新(ざんしん)示唆(しさ)に富むアイデア5作品が入賞。この写真のように、台湾でよく見かける人と人の近さに目を付け、その「温かさ」を持ち込みたいという提言と、高齢者の就労(しゅうろう)マッチングシステムの提案が、それぞれ最優秀賞に選ばれた。

 皆さんと同じ中高生が考えた入賞5作品を紹介する。改めて身の回りの孤立問題を見つめ、その解決策に思いをはせてほしい。

頑張りすぎない台湾

「台湾で体感したいいね!を日本に活かせたらいいね!プロジェクト」
台北日本人学校中学部1年
細井美里さん 13

朝晩外食 子育てにゆとり

 台湾人って、日本人みたいに頑張りすぎないし、子どもにもお年寄りにもとても優しい――。

 昨年4月、父親の転勤で愛知県から台湾の最大都市・台北(タイペイ)市郊外で暮らし始めると、日本とは違った台湾の良い点が色々と見えてきた。

 中でも、細井さんが「いいね!」と思った代表例が右の写真一覧だ。

 核家族や共働き世帯は日本と台湾で共通しているが、台湾では朝晩ともに家族で外食したり、店での食べ残しを持ち帰ったりする生活スタイルが定着している。

 仕事と家事を両立させるために頑張る日本人の母親が多い一方、台湾の母親は無理せず、ゆとりを持っていると実感した。放課後に子どもたちが過ごす学童保育のような「安親班」では、子どもたちは仲間とともに宿題をして夕食を食べ、孤独を感じず、親からすれば、夕食も出るために安心して夜まで預けられるという点で、両者にメリットがあることに気付いた。

 電車でお年寄りに席を(ゆず)るのはもちろんのこと、子どもにも譲ってくれるのが当たり前。お年寄りが家族と手をつないで歩いたり、バイクで2人乗りしたりするなど、人と人との距離感がとても近いのを目の当たりにした。街中にたくさんある寺でお参りすることで人々は()やされ、また細井さん自身も心が安らいだ。

 今では毎日楽しいと思えるようになった細井さんだが、来た当初は孤独を感じた。自分よりも先に台湾に引っ越してきて、台湾での(しば)られない生活スタイルに慣れた同級生らとは感覚が合わず、台湾料理に使われる甘い独特の香りがする香辛料「八角(はっかく)」にも慣れず、日本に帰りたくなった。

 それでも台湾人の優しさに触れ、何事もシンプルに考えることで、徐々に楽しく過ごせるようになった。

 台湾で暮らし始めてようやく1年。日本を外から見ることで日本人がいかに世間体を気にするかにも気付いた。

 細井さんは、「自分の考え方を柔軟に変えるだけで人とのつながり、思いやりが生まれることに気付いた。まずは自分、家族、そして地域や日本全体にそんな発想を広めることで、孤立する人が減っていくのではないか」と考えている。

 宮城治男審査員の講評 「発想のみずみずしさに心を打たれた。こうした考え方が広がれば大きな変化が生まれるし、そのような場面を『いいね』とSNSで発信していけば、一つのムーブメントを起こせるだろう」

体弱い高齢者に仕事

「HATARA*CASION!!~働ケーション~」
静岡県立伊東商業高3年・太田グループ
(代表者・太田歩花(あゆか)さん 18、加藤拓斗さん 18、東野(ひろ)さん  18、山本樹利さん 18、藤井うららさん 18)


求人 新サービス

 「働きたいのに、働く場所がない」。アイデアの出発点は、雇用の場がないことが高齢者が孤立する原因なのではと考えたことだ。

 メンバーの加藤さんは、知り合いで一人暮らしの高齢者から足腰が弱くなって働けず、家に閉じこもっているという話を聞いた。そこで、3年生で作ったグループのメンバーで市役所に取材を敢行(かんこう)。伊東市内の高齢者の現状は左の表の通り、全国平均よりも高齢者の割合が多いことや、一人暮らしの高齢者世帯が5927世帯あり、年々増加していることがわかった。内閣府の調査を見ると、働きたいと考える高齢者は多いことも知った。

 市が行う高齢者向けサービスは、福祉施設と協力した「デイサービス」だけで利用者も少なかった。だったら、市の高齢者向けの新サービスを作ろう――。働きたい高齢者と企業や学校などの求人を市が仲介するサービスを、市役所内に設置するシステムを考えた。

 ネーミングには、「HA(働きたい)、TA(単身高齢者が)RA(楽に)CA(簡単に)SI(仕事を探して)ON(エネルギーオン)」という意味を込めた。

 温泉宿がたくさんあり、伊豆半島有数の観光地でもあるため、ややもすると社会的な孤立問題とは無縁と考えてしまうかもしれない。だが、東野さんは「地元のことを知り、問題を注視する良い機会になった」と振り返った。藤井さんは「このアイデアを、次は実現できるように考えていきたい」と話した。

 斉藤真人審査員の講評「自分たちの問題意識を様々なデータから分析し、市役所にもヒアリングして検証している。実際のビジネスでも使う手法で考えたところが素晴らしい」

デイサービス 高齢者が日帰りで福祉施設に通い、食事や入浴の介助を受けたり、レクリエーションをしたりできる。高齢者が自宅に閉じこもって社会的に孤立するのを防ぎ、介護する家族の負担を軽くするのも目的。現在、全国に約4万4000施設ある。

受賞生徒に表彰状

 コンテストの表彰式は3月17日、最優秀賞の受賞者を対象に読売新聞東京本社で行われ、静岡県立伊東商業高校の太田グループの生徒に表彰状と図書カードが贈られた。

 グループ代表の太田歩花さんは「自分たちのプランが最優秀賞になるなんてとてもうれしく思う」と笑顔で話した。主催者を代表して、読売新聞東京本社の柴田岳編集局長は「大切なのは問題に気付くこと。これからも問題を見つけ、変える手段を自分で考えて実現することがビジネスや社会の変革につながる。今回の受賞を機に将来、日本を変えていくいい仕事をしてもらえれば」と述べた。

 台北日本人学校中学部の細井美里さんは、海外在住のため欠席した。