俺の噺を聴け(2)

浦和高(埼玉県) 落語研究部

こんな話です

 話芸の神髄を極めようと、日々、練習に励む浦高オチケン(浦和高校落語研究部)。部長の銀杏亭師弦(3年)ら部員10人が芸を磨く稽古場は、伝統芸能からは想像のつかない意外な場所だった。

▽過去の連載

俺の噺を聴け(1)

スベるの怖い。ひと言に「汗と涙」。

 エー、どうも。銀杏亭(いちょうてい)師弦(しげん)でございます。

 いきなり、愚痴(ぐち)で申し訳ないんですが、オチケンってどうも誤解されてると思うんです。

 例えば、「今日も練習が大変」なんて言ってみるでしょ。すると落語を知らない連中からは、こう返されるんです。

 「は? オチケン? ヒマだし楽だし、最高じゃん」

 ……。まぁ、ひどい言われようです。でも、「汗と涙の物語」って運動部の専売特許なんでしょうかね。いえいえ、決してそんなことありません。今回は、私どもの練習風景をみなさんに紹介しましょう。

IT駆使

 

 伝統話芸ということで、和室か何かで活動していると思うかもしれませんが、私らの稽古(けいこ)場はなんとコンピュータールーム!! IT機器がずらりと並ぶ一室で、机の上に座布団を敷き、落語を披露(ひろう)しています。

 稽古に欠かせないのが、顧問の長澤先生が愛用するiPad。自分の落語を録画して、その動画をユーチューブにポチッとアップ(もちろん部員だけが見られる設定ですが)。しゃべりの速さ、声の大きさ、しぐさなど、その一挙手一投足について、みんなでチェックし合います。

 落語だし、楽しくやればいいじゃん、って言われても、野球選手が1球に泣くみたいに、(はなし)()はひと言に泣くわけです。せりふもしぐさも、普段から(みが)き続けないと、待っているのはあの恐ろしい時間――。お客さんがクスリとも笑わない、ダダ(すべ)りの静寂(せいじゃく)です。

 長澤先生もよく「落語は言葉のスポーツだ」って言いますが、高座は一瞬たりとも気が抜けない真剣勝負。もしもツルッとスベったら……想像をするだけで、夜も眠れません。

天賦の才

 

 時に“才能”の差を突きつけられるのもスポーツと同じ。自然と人を引きつけられる天賦(てんぷ)の才ってのがあるんです。

 浦高オチケンでは、3年生の「銀杏亭福ふく」がその一人。最近練習している古典落語の名作「阿武松(おうのまつ)」もまた秀逸でね。

 主人公は大食いの見習い力士。あまりにもおまんまを食い過ぎて一度は相撲部屋を追い出されるんですが、その食いっぷりの良さにほれ込んだ別の師匠に拾われ、後に横綱になる立身出世の物語。噺のうまい福ふくは、まずこう切り出します。

 「エー。人には三大欲求ってのがありまして、我々男子高校生は、食欲、睡眠欲はすくすくと育っていくんですが、残る一つだけがどんどんとおかしな方に育っていく……」

 軽い下ネタで聴衆の心をがっちりキャッチ。聞き手の耳に残るハスキーボイスも魅力で、主人公がむしゃむしゃメシを食うシーンなんか、そのリアルさはハンパありません。

 あまりに完璧なデキに、私は最初、「プロの動画でも研究したの?」と聞きましたが、「いや見たことない。本を読んで自分でアレンジした」と涼しい顔。ほんと、みなさんにも一度でいいから、彼の軽妙な語り口を聞かせてあげたいぐらいです。

 そうそう。噺を聞かせると言えば、福ふくは近く、オチケンの威信(いしん)を懸けた舞台に臨みます。全校生徒が憧れる文化祭の花形・オープニングで高座に上がる予定なんです。

 オチケンを誤解している連中が、福ふくの話術に“まんま”とはまって抱腹絶倒する姿が今から楽しみでなりません。