闘論(1)

洛南高付属中(京都府) ディベート部

日本はドラえもんを22世紀に帰すべきか

 古都・京都でも燦然(さんぜん)と輝く歴史を持つ世界遺産の寺「東寺」。794年、桓武天皇が平安京に遷都した際に築かれ、後に空海が真言密教の聖地として発展させたこの寺の境内に、僕らの学校はある。

 東寺のシンボル的存在「五重塔」が窓から見えるディベート部の部室を僕が初めて訪れたのは2年前の春。そこで得た体験は、桜に彩られた境内の春がかすんで見えるほど、衝撃的だった。だって、先輩たちが真顔でこんな論題について討論を始めたのだから。

 「日本はドラえもんを22世紀に帰すべきである。是か非か」

肯定と否定 真顔で

 教室前方の教壇を挟んで左右に分かれた中学の先輩部員と高校のディベート部員、そしてぽか~んと口を開けている僕ら見学者。

 司会役の先輩が簡単にディベートのルールを説明する。それによると


 【1】1つの論題について、肯定側、否定側に分かれて議論を戦わせる

 【2】1チームは4人。役割分担は、自分たちの意見を説明する「立論」、相手に質問をぶつける「質疑」、相手に反論する「第一反駁(はんばく)」「第二反駁」がある

 【3】審判がより説得力があったチームを選ぶ


 ということらしいのだが、そんなことより、なぜドラえもんを未来に? てか、ドラえもんって、そもそも実在しないでしょ。帰すべきか否かって……。

 なんて混乱おかまいなしに、先輩たちはこっちが聞き取れるかどうかというぐらいの早口でディベートを始めた。

 議論の口火を切ったのは、肯定側。

「ドラえもんが持つひみつ道具は危険なものが少なくありません。かつては、ネズミ怖さに『地球はかいばくだん』を取り出したこともあります。ドラえもんが破損、暴走した場合、人類に与える影響の大きさは計り知れません。よって、ドラえもんは22世紀に帰すべきです」

 否定側も負けてはいない。

 「ドラえもんはこれまで数々の映画で外敵から地球を救ってきた実績があります。暴走など万が一のリスクを恐れ、人類の味方・ドラえもんを手放せば、これから地球に訪れる危機に対処できなくなる恐れがあります。よってドラえもんは22世紀に帰さず、ずっと現代に残るべきです」

事実の積み重ね

 なるほど、この論題。よくよく聞いていくと、人工知能とか科学技術の発展と人間との関係と似てるかも。見学者全員でやったジャッジでは、僕は否定側に1票を入れた。科学技術って常にもろ刃の剣。リスクとうまく向き合っていくことが大切だと思ったから。

でも、ディベートの面白いところはここから。1週間後、もう一度見学に訪れたとき、まったく同じ論題の模擬ディベートを見たんだけど、今度は肯定側の意見に説得されたんだ。

 個人的な意見や主張ではなく、データなど客観的な事実を積み重ね、まわりを説得する。僕はこの2回の見学でディベートの魅力にどっぷりはまり、一直線に全国をめざすことになった。

 あっ、自己紹介がまだでしたね。僕は洛南高校付属中ディベート部で部長をやっている大林です。

 究極の知の格闘技・ディベートの世界へ、ようこそ。

(高校生の登場人物はすべて仮名です)