驚きが隠し味(4)

鎌ヶ谷高(千葉県) 料理研究部

こんな話です

 自分たちらしい味を目指して、日々試作を続ける鎌ヶ谷高校の料理研究部。千葉の郷土料理「まつりずし」に取り組むサツキとナナは、要となる「薄焼き卵」に苦戦していた。

▽過去の連載

 驚きが隠し味(1)(2)(3)

料理って、やっぱり奥が深い

 普通じゃないおいしさを求め、日々、オリジナルレシピを研究している鎌ヶ谷高校料理研究部。なぜここまでのめり込めるのかというと、試作を重ねる度に肌で分かってくるからだ。料理の世界の奥深さが。

 「今日はこれで2勝3敗、だね」。皿の上でくしゃくしゃに崩れた黄色の塊を前に、2年のサツキとナナはため息をついた。

 秋の文化祭レストランに向けて2人が挑戦しているのは千葉の郷土料理「まつりずし」。断面がきれいな花柄や幾何学模様になる巻きずしで、インスタ映えも完璧なのだが、酢飯をまく薄焼き卵がど~してもうまくいかない。

 文化祭では出すのは100食分ぐらい。こんな勝率ではとてもとても本番を迎えられない。

 「もう! 卵を混ぜて、塩と砂糖を入れて、薄く焼くだけなのに!! 私って不器用過ぎる」

 「そうイライラしない。見かけはダメだけど、美味(おい)しそうじゃん」

 へこむサツキの脇から、食いしん坊のハナが味見用のスプーンをすっと差し出す。

 「うっ……」

 ん? 顔をゆがませるハナを見て、サツキもひとつまみ口に含んでみると……。

 ふむ。どうやら、砂糖と塩の分量を入れ間違えたらしい。卵焼き器から卵がはがれなかったり、気泡ができて表面がボコボコになったり、これまで何十回も失敗しているが、ここまで精神的に追い込まれるとは。

 薄焼き卵、恐るべし。

薄焼き卵

 「卵焼き器が熱せられたら、一度火から下ろして、ぬれぶきんに置いてごらん」

 崖っぷち状態のサツキとナナに、声をかけたのは食育ボランティアの房子さん。家庭料理のプロで、13年前に部ができて以来、折に触れ、料理の基本を教えてくれているアドバイザーだ。

 なるほど。じゃあ、もう一回挑戦。卵を割ってボウルに入れ、チャチャチャッと菜箸でかき混ぜて……。

 「ストップ」とまた房子さん。

 「卵も料理によって混ぜ方が違うんだ。薄焼き卵を混ぜるときは、空気を入れないように箸をそっと動かせばいい。そうすれば、凸凹もできないよ」

 そうなの? 目を丸くする2人を尻目に、房子さんは華麗な手さばきで、透けるように美しい一枚を焼き上げたのだった。

 卵を焼くだけなのにこんなにポイントがあったなんて。

 薄焼き卵、やはり恐るべし。

恐るべし

 料研では房子さんのほかにも、プロを招いて講習会を開いている。サツキはその度に料理の奥深さを思い知らされる。だって、材料選びから飾り付けまで一つ一つ、すべての工程に技とこだわりが詰まっているのだ。

 例えば、去年のクリスマスケーキ講習会。

 「生地を型に流し込むときは、2層に分けると均一に焼ける」

 「生クリームの泡立て具合は、デコレーション位置によって変えてみよう」

 技に技を積み重ねて作り上げたあの日のケーキ。食べた瞬間の感動は半端なかった。

 「私もプロ、目指そうかな」

 サツキは最近、そう思い始めた。もちろん、その道のりは厳しい。プロの料理には妥協も許されない。でも……

 一生忘れられそうにないのだ。ここで学んだ、人に驚きと感動を届ける楽しさって。

 (高校生の登場人物はすべて仮名です。完)

 文・影本菜穂子 写真・米田育広