スマートニュース

ニュースとの接点増やしたい…スマートニュース(前編)

 ジャーナリズムが大きな岐路を迎えています。インターネットの普及によって情報の受け取り方が多様化し、民主主義の基盤を支えている報道の世界にも大きな変化の波が訪れています。ネット上では「読まれる記事」こそが「良い記事」と言われ、その記事に収益性も求められる時代になりました。一方で、ネット空間においては短絡的、感情的な世論形成がまま見受けられるようになりました。日本では硬派の記事が好まれなくなってきたというデータもあります。このような変革の中で健全なネット世論を構築するため、私たちはこれから何を目指し、何をなすべきでしょうか。広くネット業界にかかわる当事者へのインタビューを通し、望ましいネット「よ・ろん」を考えたいと思います。第1回は、スマートニュースの川崎裕一執行役員広告事業開発担当に聞きます。

聞き手・読売新聞メディア局編集部長 原田康久

スマートニュース本社(東京都渋谷区)で

オフィスのイメージは「アメリカの倉庫街」

  • 静かなオフィスだが、コミュニケーションツールで常に議論している
    静かなオフィスだが、コミュニケーションツールで常に議論している

――居心地の良さそうな素晴らしいオフィスですね。いかにも、IT企業らしい雰囲気が漂っています。

 アメリカの倉庫街にあるようなオフィスをイメージしています。社員それぞれの席はありますが、自席を離れて気分を変えたり、社員が集まったりできる場所を作っています。バリスタが入れてくれる本格的なコーヒーを楽しめるスタンドもあるんですよ。

――ただ、割とみなさん静かに仕事していますね。

 表面上は静かにPCに向かっているように見えますが、裏側ではコミュニケーションツールを使って、熱心な議論を戦わせています。それはもう活発に議論していて、今この瞬間にも様々な意思決定が行われているんですよ。その上で、難しいテーマについて話し合う時や、紙に書かないと理解がついていかない場合に、初めて会議が持たれます。ただ、そうは言っても顔を合わせて会話することは大切で、コーヒースタンドのように社員が立ち寄れるスペースを設けて、いつでも気軽に会話できるように工夫しています。

――私自身もスマートニュースをよく読んでいますし、読売新聞の記事も使っていただいている。非常に見やすい仕組みで使いやすいですし、ニュースの見せ方が上手だなと、いつも感心しています。

 私自身は会社が設立された後に参加したのですが、創業メンバーはニュースを読むのが大好きで、雑誌や新聞のレイアウトに親しんできた人間なんですよ。おかげさまで、ニュースのプロの方々からも「見るにたえる」と評価していただいています。例えば、文章を変なところで改行しないとか、文字がきれいに見えるとか、画像の配置の仕方とか、そんなことです。雑誌や新聞では当たり前に行われていることが、今までインターネットでは軽視されていた。そういうものを全部アプリに反映させた結果、メディアのプロが見ても、まあまあ合格点かなってところまでは来ているかなと思います。

売り上げはゼロで、収支は真っ赤だった

  • 対談する川崎執行役員(左)と原田部長
    対談する川崎執行役員(左)と原田部長

――川崎さんはどのような経緯でスマートニュースに入ったんですか。

 「ミクシィ」の取締役だったので、スマートニュースの成長は注目して見ていました。そこで、投資の観点で参画するのも面白いのではないかと検討を始めたんです。その結果、いよいよ投資しようというタイミングで、「投資するだけではなく、事業としてかかわってこい」という指示を受けて、落下傘的にスマートニュースに来ました。だから、当初はここまでどっぷり付き合う予定ではなかったんです。ただ、僕も事業参画の提案者のひとりだから、途中で投げ出すつもりもないし、広告の仕事を長くやっていたので、広告事業での収益化ができないか、と思って来ました。ところが、入ってみると、これが結構面白い仕事で、ミクシィに迷惑をかけましたが、スマートニュースに完全にうつることにしました。

――事業は順調ですか?

 おかげさまで。2014年12月に広告事業を開始しました。私はその年の8月にこの会社に入ったのですが、そのタイミングでミクシィが出資して、広告事業の準備を始めることになります。だから、会社設立からそれまでの2年半は、まったく収益を上げてなかったんですね。投資家の出資金でサービス開発やユーザー集客に使っていた。本当に売り上げはゼロで、収支は真っ赤です。ただ、インターネット系のスタートアップと呼ばれる企業は先行投資型で始まるケースがは少なくないですね。

リスクマネーがネット産業を支えた

――資金が底をつくまでにモノにならなければ、撤退を余儀なくされるリスクもあったということですね。

 ハイリスク・ハイリターンです。日本の投資環境は結構、様変わりしています。1976年生まれの僕が大学生のころにあった、日本のベンチャーキャピタルの草分けとなる企業の主な投資先は消費者金融やパチンコなどでした。当時はリスクマネーというのが少なかったんですね。その後、ドットコム・バブルがあって、日本でも「サイバーエージェント」や「ライブドア」が生まれ、ナスダック・ジャパンが上陸し、バブルが崩壊して、その中で生き残ってきた会社があって……という変遷をたどりました。そして、そこから「グリー」「DeNA」が出てくるんです。私たちにとってラッキーだったのは、そういう会社が上場して、創業者たちや多くの人がそれなりの資金を持つようになったことです。そういう「投資をできるぐらいの資産」を持ったエンジェル(個人投資者)が増えた結果、リスクを取れる人が増えたんですね。我々の会社も、最終的に売り上げの計上はもちろん目指すが、いくらかの時間的猶予ができた。

  • 「会社をさらに育て、もっと記事を読まれるようにしたい」
    「会社をさらに育て、もっと記事を読まれるようにしたい」

――そうした投資環境の変化が、日本経済の活性化に寄与している部分はあろうかと思います。

 そうですね。まだまだ少ないとはいえ、インターネット産業というものが日本の産業の一角を占めるようになったのは、こういうリスクマネーのおかげというのが、非常に大きいと思います。私たちも14年にひと月分の売り上げをようやく計上しましたが、そのころは本当に(すずめ)の涙くらいの額です。

――そのころと現在の売り上げは?

 非公開です。初年の売り上げは言えないくらい雀の涙。今は、おかげさまで成長できましたが。

――社員数は?

 アメリカと日本合わせて60人弱です。

――少なくとも、その暮らしを支えられるだけは儲かっていると。

 今はまだ頑張っている段階ですね。ただ、我々のサービスを使ってくださっているユーザーに対し、もっと優れたユーザー体験、適切な情報を届けるという点ではまだまだ、いろんな面で不足しています。そして、我々がさらに成長しないと、新聞社などからお預かりしている大切な記事をもっと読まれるようにできません。広告も含めて、我々とかかわっていただいているステークホルダーのご期待に添えるところまでは来ていないという認識はあります。