上智大学

新聞社の活路を見いだす…上智大・音好宏教授(後編)

前編から続く)

動き始めた放送業界

  • 「多くのプレイヤーがネット空間を耕すことに意味がある」
    「多くのプレイヤーがネット空間を耕すことに意味がある」

――インターネットの世界では見出しのつけ方ひとつでPV(ページビュー)が大きく変わる。それは、ヨミウリ・オンラインでも常に意識している点で、PVの推移などを見ながら、絶えず見出しのあり方を点検しています。ただ、先生のご指摘のように、手探りや勘でやっている部分が大きく、体系化した技術にはなっていません。

 放送でも同じようなことが行われています。NHKは最も視聴率が関係ないところだけれど、彼らはアバン(※)の研究をしています。NHKスペシャルのアバンは長すぎるのではないか、などと言われますが、それはまさに、こういう時代だからこそです。視聴者の情報への接触の仕方がずいぶん変わってきたんです。

 一昨年あたりから日本の映像系でよく言われるようになったのは、「OTT(※)がたくさん出てきたことで、一気見せが、実はすごく人々にウケるのではないか」ということです。年末年始に連続ドラマを立て続けに1話から最終話までを一気に見せるというように、編成の仕方が変わってきている。メディア環境の変化によって、その提示の仕方が変わってきている。その研究は今後もますますなされるべきだと思います。

 NHKは公共放送から公共メディアと名前まで変えて、世の中にとって大事なニュースは、どこにいても見られるようにすることが私たちの使命だと言い始めています。いささか上から目線だと思いますが、彼らがそう言うのはネットに人々の関心が集まっているからですよ。

 ※アバン=アバンタイトル。ドラマやアニメなどでオープニングの前に流れるプロローグシーンのこと。ワイドショーやニュースなどにも取り入れられる。

 ※OTT(Over The Top)=放送波やケーブルを経由せず、インターネットを通じて番組を配信するサービス。

  • 「技術はまだ体系化されておらず、手探りや勘の部分が大きい」
    「技術はまだ体系化されておらず、手探りや勘の部分が大きい」

――それがつまり、彼らがネットで番組を同時に再送信できるようにするための根拠になっているのでしょうが、受信料をつぎ込んでまでネットに進出しようとするNHKのやり方には、強い違和感を覚えます。

 そうです。この件に関して私は新聞協会の関係者とも話す機会があるのですが、「そういうNHKに対して、文句言うのが新聞協会の仕事ですよ」ともお伝えしています。日本では、NHKに対し文句を言うことができる環境にあるわけです。それができることは、多様な選択肢があることもあって、実は良いことなんです。イギリスではまさに議会で、BBCがネット再配信についてお墨付きをもらっているが、それは、ネット空間を耕せる者が、イギリスの場合にはBBCくらいしかないからなんですよ。英国には読売新聞も朝日新聞もないため、イギリスをけん引する事業体として、BBCにネット空間を切り開いてもらうしかないわけです。

――受信料を背景にNHKがネットに進出すれば、かえってネットが耕されなくなるかもしれませんね。

 日本の場合は、読売も日経もTBSにも、ネット空間を耕すことができます。とすれば、そういう多くのプレーヤーたちが、ネットという新しい空間を耕すことにこそ意味がある。もちろんそれは、新規メディアの人たちは入ってくるなということではなく、彼らといっしょに、空間を質の高いものにしていくことに価値があるし、もっと言えば、日本語という問題があるにせよ、海外への情報発信ということを、どういうふうにするのかということを、考える必要があるんじゃないかと思います。