株式会社ツナグ

分断する日本人と価値観~佐藤尚之氏(前編)

 インターネットの出現により、われわれが日常的に接する情報の量が爆発的に増えています。そうした社会状況の中では、新聞やテレビといったメディアなど既存のシステムから提供される情報が、生活者のもとに届きにくくなってきているのではないか。「ファンベース」という新しいマーケティング手法を紹介する佐藤尚之さんは、そのように指摘します。旧来型のキャンペーンが機能しなくなってきている、という佐藤さんに、膨大な情報が飛び交う世界で、マスメディアは何をすべきかをお聞きしました。

聞き手 読売新聞メディア局次長 原田康久


東京都港区で

「ファンベース」という考え方

  • 佐藤尚之(さとう・なおゆき)=1961年東京都生まれ。(株)電通入社後、コピーライターやウェブディレクターなどを経て、2011年に独立し、(株)ツナグを設立。現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」「さとなおリレー塾」などを主催。新刊『ファンベース』(ちくま新書)など、著書多数。
    佐藤尚之(さとう・なおゆき)=1961年東京都生まれ。(株)電通入社後、コピーライターやウェブディレクターなどを経て、2011年に独立し、(株)ツナグを設立。現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」「さとなおリレー塾」などを主催。新刊『ファンベース』(ちくま新書)など、著書多数。

 ――著作『明日のプランニング』(講談社現代新書)と『ファンベース』(ちくま新書)を読みました。非常に面白かったです。これからの企業は、ユーザーを単に消費者として扱うのではなく、その会社のファンに育てていくべきだということが書いてあります。本でも、新聞社のビジネスモデルについて少し触れられていますが、今までの新聞ビジネスでいうと、販売店は新しいお客さんを開拓することにかなりの営業資源を割いているのは確かです。長期読者を決してないがしろにはしていませんが、もっと長期契約の読者を大事にすべきということでしょうか?

 本来は、もともと買ってくださる方を大事にするのが商売の基本だったと思います。江戸時代の昔からです。ところが、マスマーケティング(※)が万能な時代になってくると、新規顧客を次々と取れば、既存の客がある程度抜けても、結果として顧客数は伸びるという時代が来ました。しかし、時代が変わり、今は人口が減り、高齢者が占める割合がどんどん増えるようになってしまった。

 そうなると、新規顧客を取るのが難しくなります。ネットが発達し、ユーザーにとっての情報源はたくさんありますので、既存のお客さま、特にファンを大事にすることで、彼らが商品を友人に薦めてくれるようにしないと、新しい顧客は作れない時代になりつつあります。これが、『ファンベース』の基本の考え方ですね。

(※)マスマーケティング=すべての消費者を対象に、同じ方法で行うマーケティングのこと。

 ――『ファンベース』の話は後ほどくわしくお聞きするとして、前半はネット時代の話をお聞きしたいです。ネットの台頭によって、世の中に出回る情報量が爆発的に増えています。あまりにも情報量が多すぎるので、マスメディアからの情報提供といっても、莫大(ばくだい)な情報の中では砂の中の一粒程度にしかならない。佐藤さんはそれを、「情報“砂の一粒”時代」と命名されていますね。まさに新聞社も情報を発信する企業ですが、爆発的に飛び交う情報量の中で、新聞社からのメッセージが世間に届かなくなっているということでしょうか?

 そのメッセージを誰に届けたいのか、によると思います。かつての電電公社、今のNTTみたいな会社だと、「国民全体がターゲット」みたいな言い方をしていました。でも、国民すべてがターゲットという時代は終わっていて、伝えたい相手はある程度、絞られるべきです。新聞社は誰にニュースを届けようとしているのか、ということです。

 『ファンベース』にも書きましたが、ネットを日常的に活用している人は、日本には実はそんなに多くないんですよ。2000万~3000万人というところでしょう。残る1億人くらいは、ネットのヘビーユーザーではないのです。ネット時代になって、新聞社による世論形成ができなくなったというのは、半分は自虐的な思い込みなのではないかという気がします。

 ――ネットを日常的にやっているのは、東京だけだと指摘されていますね。

 つまり、トランプ大統領が顕在化させたアメリカ社会の分断のようなことは、日本でも起きていると思っています。アメリカではメディアがいくらトランプ批判の記事を書いても、その支持率が落ちない、という現象が起きていますね。

 ――はい。不思議な現象として見る向きもあるようですが。

 そういうようにメディアの意見が届かない層がいると同時に、ネット上で騒然となるような話題が全然届いていない層も大きく存在します。日本でもネットをそんなにやっていない人がたくさんいて、そこには世帯ごとにちゃんと新聞が届いている。イノベーターやアーリーアダプター(※)というような人はネットを良く活用していますよ。でも、それは全体の2~3割だと思います。

(※)イノベーターやアーリーアダプター=アメリカの社会学者が提唱した「イノベーター理論」に基づき、新商品購入の態度を、購入の早い順に五つに分類したもの。イノベーター、アーリーアダプターの順に購入が早く、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティー、ラガードと続く。